がんばりマガジン
インタビュー

「こぐま会」の久野先生に聞く 幼児教育の今<2回目>

「こぐま会」代表 久野泰可氏
「こぐま会」代表 久野泰可氏

五感を使って育む論理的思考力がこれからの時代を生き抜く糧に

icon文・廿楽玲子
7歳の娘をもつライター。親子ともに小学校受験の経験あり。

——小学校に入るまで、具体的にはどんな学習をすればいいのでしょうか。

久野先生:小学校に入ると算数・国語、そして生活(理科・社会)という教科を学びます。幼児期に育てるのは、その教科学習を支える土台の部分です。たとえば数というものは非常に抽象的なものですから、いきなり数字の世界に子どもを引き入れてしまうと、数式のやり取りだけになってしまい、理解が深まりません。計算はできても、文章題になったとたんにつまずいてしまうのです。文章題というのは、実際に起こっていることを文章から読み取って、それを立式して解く力が求められますから。

——かなりハードルが上がりますね。

久野先生:そう、式を立てるところで論理が必要になるので、そこをしっかりやるのが幼児期の基礎教育です。

——論理的に考える力というのは、どうすれば伸びるのでしょうか。

久野先生:我々が考えた項目の中でいちばん大切なのは、視点を変えてものごとを見られるかということです。幼児の思考の特徴として、あるひとつの観点に着目すると、そこに注目してほかの観点で見えなくなってしまうというものがあります。そこで、ほかにも違う視点があるんだよということを教えてあげる必要があるのです。

——確かに子どもの目線って、一点集中的です。

久野先生:有名な水量の実験があります。同じコップに同じ量の水を入れて、そのあと、高さの違うコップに移し替えます。

どっちの水の量が多い? KUNOメソッド

そこで「どっちの水の量が多いですか」と聞くと、ほとんどの子が背の高いコップを指さします。そこで、また同じコップに移し替え、同じ量だと確かめたところで、再度高さの違うコップに移し替えると、やっぱり「背の高いコップのほうが多い」と答えます。子どもの目が、コップの背の高さだけに集中してしまっているんですね。そのなかで、ある年齢になると「量は同じ」と答える子が出てくる。なぜと聞くと、「だって水を移すときにこぼさなかったから。入ってる量は同じ」と。またある子は、「高くなったのは、細くなったからで中の量は変わらない」と別な視点に気付くのです。

——そこで先走って答えを教えたらダメなんですね。

久野先生:子どもがいかに気づくかが大事なところです。そのために、いろんな領域の学習をすることによって目を養うのです。

小学校受験では、鍋や箸など生活用品の絵を並べ、仲間で分けてくださいという問題もよく出題されます。すると多くの子が、台所用品と食器類で分けます。そのあとに「そのほかに、違う分け方はできますか」と問われ、今度はたとえば鉄と木の素材で分けます。そうやって1回作ったグループを壊して、違う視点に立って違う共通項を見つけられるかを見ているのです。

——いちど定めた視点を変えるのは、大人でもけっこう難しいように思いますが……。

久野先生:でも親は、子どもが友達とケンカしたときに「○○ちゃんの気持ちになって考えてごらん、どう思う?」という話を自然としているでしょう。これが大事なんですよ。自分から見る状況と、お友達の立場から見る状況は違うことを知り、相手の立場になって考えることで問題を解決していく。そういうふうに視点を変えてものを見られるということが、論理性のひとつの芽生えです。

——日々の生活でも自然と学んでいるんですね。

久野先生:ですから「こぐま会」では、いきなり生活から切り離された勉強に進むのではなく、まず子どもの生活や遊びを再現し、体や手を使って、ものごとの属性を学んでいきます。五感を通して実感し、最後にペーパーで数式を使って抽象化していくというのが、我々のメソッドのひとつです。

こぐま会 生きる力を学ぶ

——それは勉強というより、生きる力を学んでいる感じがします。

久野先生:子どもたちはこれからの時代を生き抜いていくのですから、力をつけなければいけないし、その力を教育によって引き上げなくてはいけない。そのためにどういう活動をすればいいのかということを、我々はずっと考えてきています。

これはある病院の話ですが、医者の研修会で、折り紙で輪っかを作り、チームのみんなでつなげていくという研修があったといいます。「何の意味があるのですか」と聞いたら、今の医療はチームで行うから、チーム力がないと絶対にうまくいかないと。だから輪っか作りという単純なことを研修会でやっているというのです。これは小学校受験で行われる行動観察テストとほとんど同じ内容です。

——まさにそうですね。

久野先生:このように行動観察テストというのは、とても意味があるものなのです。それを企業も取り入れ始めています。

——子どもも大人も、求められるものは同じというわけですね。

久野先生:まったく同じです。今教育の現場では、プログラミング教育が話題になっていますね。これも論理性をいかに身に付けるかということなのですが、言葉だけが広まって、中身がきちんと検証されていないように思います。それで先走ってプログラミング言語を学んだりするけれど、その言語は10年後に使われていないかもしれない。それよりも、カレーライスを作る手順を覚えたほうが、よっぽど役に立つと言うIT関係者もいます。料理はものの流れをしっかりつかむいいトレーニングになると。

——わかります。料理は段取りが命なので、すごく頭を使います。

久野先生:これからロボットが人間の仕事を取って代わる時代に、新しい価値を創造できる人間になれるかどうかが問われるようになります。テストで高得点が取れたからよしということでなく、それを生かす人間力が必要になる。コミュニケーション能力や、目標を立ててがんばりぬく力など、そういった数値化できない能力を「非認知能力」といって、それが2020年の教育改革のひとつの柱になっています。

■次回は、幼児期に親子で学ぶ意義についてお聞きします。

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